1998年8月、オーストラリア北部の州都ダーウィンから調査地へ向かってアーネム・ハイウエーを走っていると、突如「通行止」の標識。アデレード川に架かる鉄橋の橋脚が折れたという。酸性度が高い川水で腐食したためか、前日の夕方、脚の1本の喫水部が突然折れ、重量級のロードトレインは渡りきったが、後続のバイクと四駆車が川に落ちた。ワニのうようよ居る場所だが、けがもなく助かったという。
下流にフェリーの臨時シャトル便が出ているが待ち時間は30分、橋の修復にあと数週間かかると、のんびりしたことである。
そこで、別の道路を100キロ迂回(うかい)することにした。地道とは言え、グレーダーで固めた直後なので時速100キロで飛ばせる。と、突然、乾期真っ盛りなのに夕立がやってきた。それほど激しくはないが、驚いたことに、たちまち緑が濃くなったユーカリの森から、さわやかな香りが立ち始め、周囲を包んだ。ユーカリかハーブが雨を受けて香りを発したものか。一瞬の出来事だったが、回り道のおかげで雨を司(つかさど)る精霊、虹ヘビの恵みを受けたのだろう。そこで一句。「虹ヘビの 恵み草木は 匂(にお)い立つ」。それは今でも脳裏に深く残る光景だ。
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