未来への継承に熱意を持った担い手がいないと、文化は存続の危機に陥ってしまう。つまりは、文化を支えるのは人間とその価値観ということだ。災害や戦争はこの二つの基盤を破壊し、文化の存続を危うくする。
東日本大震災の被災地では、大津波で町並みが消滅し、多くの住民が亡くなったことで、自治会組織を解消したところもある。それでも、人びとをつなぎとめているのが、祭りを執りおこなう「祭り組」や芸能保存会だ。こうした無形民俗文化への支援が、いち早く始まったのも、今回の被災地支援の特徴の一つである。
有形の動産文化財への支援は、文化庁の文化財救援事業として、3月下旬に早くも立ち上げられた。一方、無形文化財への支援活動は、民間の財団等が主力となって始まった。祭りやイベントの全国的な自粛ムードを一掃するかのように、被災地ではがれきの中から見つけ出した道具や衣装で、民俗芸能が、避難所となった学校の卒業式や、百か日法要で演じられた。
被災した人びとが、非常時の中から少しずつでも日常性を回復していくために、そして地域の復興、生活再建のためにも、文化としての民俗芸能の果たす役割への期待は大きい。
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