未曽有の被害をもたらした東日本大震災。その被害には、地域ではぐくまれてきた文化を表象する文化財も数多く含まれており、これらは被災文化財と呼ばれている。
被災地ではまず、迅速に通常の生活に戻すことが求められる。この復旧作業のなかで、被災文化財の救出活動を被災地だけで展開することは難しい。そこで、今回の震災では、全国各地の文化財関係者が救援活動に参加している。ここで行われる救援活動は、がれきのなかから被災文化財を救出し、安定した環境での一時保管、被災時に付着した泥や砂などを落とす洗浄作業である。震災発生から8カ月を経てこれらの救援活動は落ち着きつつある。
しかし、これらの救援活動だけで被災文化財が文化財としての価値を取り戻したわけではない。それは、文化財として必要な情報が失われたままだからである。
これからは、被災地の文化財担当者を中心に被災文化財がもっていた情報を再発見しなければならない。また、東日本大震災を語り継ぐものとしても地元で保存、活用する環境も整えなければならないだろう。この二つが達成できて初めて、被災文化財が文化財として復活したといえるのではないだろうか。
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