国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

再生への道

(4)創造される伝統  2011年12月1日刊行
吉田憲司(国立民族学博物館教授)

ンゴニのンチュワラの祭 =1999年、ザンビアのムテングレニにて
今年の2月27日、アフリカ・ザンビア東部のムテングレニの町で、ンゴニの人々の伝統の祭り「ンチュワラ」が開催された。伝統の祭りとはいえ、この祭りが、今の地で古くからおこなわれてきたわけではない。それは、1980年に、「再興」を合言葉に新たに始められた祭である。 

ンゴニの人々は、もともと現在の南アフリカ共和国南部に居住していた。19世紀半ば、彼らは北へ向かって移動をはじめ、1870年ごろに現在の居住地に定着した。 

ンゴニの人々が毎年おこなっていた、その年の最初の収穫物を王に奉献する祭りンチュワラは、この移動の過程で失われてしまった。それを再興しようという動きがおこり、1980年、第1回の祭りが開かれたのである。以後、ンチュワラは毎年開催されるようになり、現在では「ンゴニ伝統の祭り」として定着するに至っている。 

ンゴニの人々がンチュワラを再興すると、近隣の民族も「自分たちの伝統を始めよう」を合言葉に、民族単位の祭りを次々と生み出していった。今では、ザンビアに73あるとされる民族集団のほぼすべてが独自の祭りをもつようになっている。そもそも伝統とは、こうして築かれてきたものなのかもしれない。
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