国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

アメリカ大陸の物作り

(3)暦を誇りに  2012年1月26日刊行
八杉佳穂(国立民族学博物館教授)

カクチケルのカレンダー

メソアメリカには、マヤ文明やアステカ文明など、高度な古代文明が栄えていた。そのためか、中米のほかの地域に比べると、現在でも段違いに物作りが盛んである。

自分たちが着る服はもちろん、土器や、籠などの日常具をはじめ、観光客が喜ぶような工芸品がたくさん生みだされてきた。

しかしながら、大量に安価なものを作り出す現代文明の影響か、ここ20年あまりの間に、ものづくりが急速に衰退している。それは言語や宗教などの他の分野にも及んでいる。

そのため、1980年代後半から、自分たちの文化や言語が消滅の危機に瀕(ひん)していることに気づいた人々が、自分たちが受け継いできたものの価値に目覚め、何とかそれらを守ろうとする運動が盛んになっている。

マヤ文明は高度な暦を発達させたが、16世紀に征服されてのち、文字や暦は一部を残してほとんど失われた。

その暦を現代に活(い)かそうとする試みがこの10年あまりの間に盛んになり、いま古代暦を利用したさまざまな種類のカレンダーが作られている。それらは彼らの遠い先祖から続く遺産を利用して、自分たちの誇りを回復する試みのひとつとなっている。

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