国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

鉄路叙景

(5)車窓に浮かぶ社会主義  2012年11月29日刊行
佐々木史郎(国立民族学博物館教授)

ハバロフスクの駅舎とプラットホーム=筆者撮影

国土が広大なロシアは鉄道大国である。ロシア鉄道会社の営業距離は8万5200キロ。その中で私がよく使うのはウラジオストーク―ハバロフスク間である。双方向とも夕方出発し、早朝に目的地に到着する便があるので、1日を移動で無駄にせずにすむ。

ほとんど夜中を走るために、あまり車窓を楽しむというわけにはいかないが、それでも夕方日暮れまでと明け方到着までは、車窓を流れる風景を楽しむことができる。この区間はシベリア鉄道の一部なので森が多いが、畑もあれば牧草地もあり、川をまたぐ鉄橋もあり、途中の村や町の家並みもみえる。

ただ、ロシアの車窓の風景はどうもヨーロッパに比べると美しくないのだ。単調なのではない。見える家並みや畑や牧草地が貧相なのである。気候が厳しいからではない。同じような殺風景な景色が、より温暖なロシアの他の地域の沿線でも見られるからである。

社会主義時代、地方では建物も街路も農地までも同一規格で整備されてきた。しかもそこにはその土地の景観との調和は考慮されていない。そして今それらが古びてしまい、美しい自然の中の汚点のようにしか見えなくなっている。村づくり、町づくりには景観に対する意識が大切であることをつくづく感じる。

 

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