国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

鉄路叙景

(7)南洋の陸蒸気  2012年12月13日刊行
丹羽典生(国立民族学博物館准教授)

フィジーのラウトカ近郊のサトウキビ列車=筆者撮影

南洋の総人口約80万の小島にも、列車はある。フィジー本島の北の端から南まで、西海岸沿いに路線は続いている。といっても人を乗せてはいない。刈り入れたサトウキビを製糖工場まで運び込むための列車である。

線路は周りを一面のサトウキビ畑に囲まれながら、いくつもの川を渡り、場所によっては村のど真ん中を横切る。列車はその上をあくまでのんびりと走っていくため、子供に追いかけられたり、飛び乗られたりすることさえある。

列車や汽車などのことを、フィジー語で「陸上の蒸気船」と呼び、日本語で汽車をかつて陸蒸気(おかじょうき)と呼んだことを思い起こさせる。新たなテクノロジーに対して、文化を異にする人々が、似たような想像力を働かせていることが面白い。

近年はサトウキビの生産の減少や、トラックなど別の輸送手段の普及に伴い、いくつかの路線は壊れたまま修復もされずに野にさらされている。

19世紀ごろ、なかば奴隷のように連れてこられたソロモン諸島やバヌアツの人びとが、路線の敷設工事に使役されていた過去があるとされるだけに、現在の路線の姿には、一抹の寂しさを感じる。

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