国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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贈り物

(4)祈りの羽根  2013年1月31日刊行
伊藤敦規(国立民族学博物館助教)

多数の羽根を施した衣装をまとったホピの人々=国立民族学博物館で、筆者撮影

昨春、民博が開いた研究公演『ホピの踊りと音楽』では、米国先住民11人が伝統的な踊りとフルート演奏を披露した。この日のため、儀礼時、実際に使う衣装を米国から民博に送る予定だったが、困難が生じた。衣装に、イヌワシやオオタカなどワシントン条約が指定する絶滅危惧種の羽根が数百枚含まれていて、米国政府が羽根一枚一枚の出所証明を求めてきたのだ。

ホピをはじめ多くの米国先住民社会では、神々に祈りを伝える使者としてワシやタカを神聖視する。渓谷で捕獲した雛(ひな)に対して人間の赤子と同じ命名儀礼をして、村落で大切に育てる。そして特別な日に霊魂を天空に送り、亡骸(なきがら)から外した羽根を、さまざまな祈りを込めた儀礼のための衣装に用いたり、祠(ほこら)に納めたりする。

1970年代、米国政府は、野生動物保護の観点から先住民による個体採取や利用に制限を設けた。その後、議会へのロビー活動の結果、新法で先住民の宗教利用は例外的に認められた。だが、依然として輸出入は手続きが難しく、今回は取りやめた。かわりに、飼育中のイヌワシが急逝した札幌市円山動物園のほか、和歌山と熊本の動物園が、突然の寄贈依頼に応えてくれた。日本各地から贈られた羽根を介して、ホピの祈りは無事神々に届けられたのだ。

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