旅・いろいろ地球人
たちこめる
- (3)祖先にささげる歌 2013年3月21日刊行
-
福岡正太(国立民族学博物館准教授)
隣り合う舞台で、違う演目が上演される=台南で、筆者撮影3年ほど前、台北芸術大学と民博が、博物館学のワークショップを開催したときのことである。台南でシラヤ族の祖先の霊を祀(まつ)る夜祭りを見学する機会に恵まれた。
広場の端には、太祖を祀った社が鎮座している。その前には、何頭もの豚が犠牲としてささげられた。そして、広場の反対側には、伝統的な歌劇の舞台二つと人形劇の舞台一つがしつらえられた。
夜中にさしかかり、社での儀礼が一段落すると、三つの舞台で、それぞれ上演が始まった。拡声器で音楽や歌、セリフを流し、少し離れると三つを聞き分けることもできない。そんな中、祭りの重要な要素である「牽曲(けんきょく)」とよばれる歌と踊りが広場で始められた。
白い服を着た女性たちが手を組んで太祖を象徴する壺(つぼ)を囲み、歌いながらゆっくりとステップを踏む。普段は歌うことが許されない神聖な歌だという。しかし、舞台がうるさくて、女性たちの輪にぴったりとくっつかないとその歌声はほとんど聞こえないのだ。
どうやら、見物人にその歌が聞こえるかどうかは問題ではないようだ。むしろ、祭りの場をいろいろな音でみたすことが重要なのだろう。それでも、祖先の霊には、しっかりとその歌は届くに違いない。
シリーズの他のコラムを読む