旅・いろいろ地球人
映画
- (1)疲れさせたけれど 2013年8月22日刊行
-
池谷和信(国立民族学博物館教授)
取材班を見つめるサン人の村人たち=アフリカ・カラハリ砂漠で1993年、筆者撮影今から20年も前になるが、私はあるテレビ番組の取材でアフリカ南部のカラハリ砂漠のサン人の村にいた。乾季で井戸はなく人々の水源は野生や栽培のスイカである。当然、水を持ち込むことになった。
困ったのは、私たちの水に対する村人の目線である。彼らの社会では、けちは嫌われる。持つ者は持たざる者に分配するのが普通である。当然、私たちの食べ物も紅茶も水も、その一部は彼らに分けられることになった。
私たちは、1ヵ月あまり、日中の炎天下で撮影を続けた。スイカ利用を中心に村の現在を伝えるためであったが、人々の動きはすばやく気まぐれだ。カメラが追い付いていけない。私は、村人に「もう一度、お願いします」と言う係りになった。その後、「タウタウ」(疲れさせる奴(やつ))というあだ名が私についた。
それから20年、この村の暮らしも大きく変わった。村が自然保護区内にあることから、政府の政策により村を離れた人も多い。しかし、私にあだ名をつけた人は、村に戻り、自らの土地での権利を求めている。それには裁判の際、土地に刻まれた暮らしの記録が必要だ。私は、当時の映像を提示することによって、ようやく彼らに恩返しできる日が近いと思っている。
シリーズの他のコラムを読む