国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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映画

(4)ストリートを離れて  2013年9月12日刊行
川瀬慈(国立民族学博物館助教)

エチオピアの都市、ゴンダールの物売りたち=筆者撮影

ビデオベット(エチオピアのアムハラ語で“ビデオ小屋”の意)に一歩足を踏み入れると、何やら汗臭いむっとした熱気が満ちあふれている。若者たちが我を忘れ、食い入るように一台のテレビモニターを見つめている。

ビデオベットは、一般家屋の居間を開放し、テレビの録画映像や映画を見せるのが一般的である。町の食堂を一定の時間だけ貸し切って、スポーツの衛星中継をする場を指すこともある。ここ、エチオピアの都市ゴンダールでは、テレビやインターネットは各家庭に普及しているわけではない。わずかばかりの入場料で何時間もいろんな映像を楽しむことができるビデオベットは、若者たちの重要な娯楽の場である。

ビデオベットの客の多くは、路上で物売りをする子供たちだ。そのほかにもさまざまな若者が見受けられる。悪いイタズラを企(たくら)み喧嘩(けんか)にあけくれる町のゴロツキたちは、ビデオベットでは一時休戦する。托鉢(たくはつ)をなりわいとする教会の聖職者の卵、ふだんは路上で物乞いをする若者たちの姿もある。

ストリートを生きるための主戦場とする若者たちは、町中を巡回する警察官や、酔っぱらいによる暴力にさらされることもある。ビデオベットは、ほっと一息つくことができるオアシスでもあるのだ。

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