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映画
- (7)カザフへのまなざし 2013年10月3日刊行
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藤本透子(国立民族学博物館助教)
草原の村に暮らす=カザフスタンで、筆者撮影カザフスタン映画は、ソ連時代に製作が始まって以降、歴史や現代社会を見つめる独自の作品群を生み出してきた。その一つが「トルパン」である。
トルパンとは、草原に咲く可憐(かれん)な野生チューリップを意味し、主人公である不器用な牧夫見習いの若者が、憧れ続ける少女の名でもある。カザフスタンは、地下資源開発により急激な経済成長を遂げる一方、貧富の差も拡大している。経済成長から取り残された草原の村で、圧倒的に美しく厳しい自然と対峙(たいじ)して暮らす家族を、「トルパン」はユーモアを交え透徹したまなざしで描く。
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ、東京国際映画祭最高賞・監督賞に輝いた本作品は、国立民族学博物館でも2010年に上映して反響を呼んだ。しかし、カザフスタン映画が一般に上映される機会はまだまだ少ない。
その一方で、アメリカ映画「ボラット―栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」は、日本も含め世界中でヒットした。アメリカ社会を強烈に風刺するコメディーだが、カザフスタンはどこか遠くにある差別的で倒錯した国という架空の設定で、荒唐無稽(むけい)な描写がされている。カザフスタンの街にはアメリカ映画があふれるが、「ボラット」はその内容ゆえに上映が見合わされたと聞く。
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