旅・いろいろ地球人
よそ者?
- (6)東の国から来たスパイ 2013年11月21日刊行
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三尾稔(国立民族学博物館准教授)
村で同居してくれた「家族」=インドのラージャスターン州で1990年6月、筆者撮影インドの農村で初めて現地調査をしたときの話である。張り切る私はまず村の地図作りに着手した。村図など作られたこともなく、珍しそうに私の作業を眺め、手伝ってくれる村人もいた。だが、そのうち、どこからか「あいつはスパイで、村に爆弾をしかけようとしている」といううわさが立つようになった。「お前はパンジャーブ州から来たテロリストだろう。爆弾はいつ爆発するのだ」と真顔で尋ねてきた青年もいた。
日本人の名前など耳慣れないので、私は当初現地語で日本人を意味するジャパーニーとだけ呼ばれていた。しかしそれも聞き慣れず、音の似たパンジャービー、つまりパンジャーブ人と混同されたのである。パンジャーブ州の分離独立運動に伴う暴力紛争やテロ事件の記憶もまだ新しいときのこと。連想が連想を呼び、私にも嫌疑がかけられた次第である。
たどたどしい現地語で妙な質問ばかりするよそ者が住み込み調査をする。住民が警戒心を抱くのも当然だろう。スパイ疑惑も村人の疑心暗鬼のなせるわざだった。調査を急ぐあまりの失敗と今では反省している。
あの地図は、今は村の中心寺院に飾られている。その寺も立派に改築され、この秋には改築儀礼への出席も兼ねて十数度目の再訪調査に行く予定である。
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