国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(2)出会った意味  2015年1月29日刊行
丹羽典生(国立民族学博物館准教授)

フィジーでの葬儀の様子=2001年9月、筆者撮影

フィジーでは、夕刻よりカヴァという伝統的飲料を車座となって囲み、雑談に花を咲かせる。座の近くを通るとお招きを受け、それに対しては、「あとから行きます」と返答する作法となっている。一種の挨拶(あいさつ)で、実際に宴(うたげ)に加わることは、招く方も、招かれる方も、必ずしも期待していない。

フィジーの先住民のほとんどは信仰に篤(あつ)いキリスト教徒で、死後の世界も信じている。雑談の際に、「あの世でもわたしたちは、こうやってみなであつまってお話しするのかしら」と話題が振られる折りがある。私はつねに、「(あの世には)あとから行きます。先にどうぞ」と、カヴァの挨拶のように冗談めかしてかわしていた。

私を実の息子以上にかわいがってくれたおばあさんは、晩年体調を崩していた。ぐったりしてイスにもたれかけながら、私の目を見据えて、「ノリオ、私たちがこうしてフィジーで出会ったのは意味があるんだ。あの世に行けば、分かるんだよ」と真剣に、そしてうれしそうに口にした。いつもの冗談は言えなかった。

半年後、彼女は老衰でなくなり、これが彼女と言葉を交わした最後となった。あの世を信じているわけではないが、出会いにどのような意味があったのか、いまでも気になるときがある。

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