国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(3)エボラへの備え  2015年2月5日刊行
浜田明範(国立民族学博物館機関研究員)

教会の日曜教室でエボラについて説明する看護師=ガーナ共和国プランカシ町で2014年8月、筆者撮影

2014年8月、西アフリカのガーナではエボラ出血熱への備えが急ピッチで進められていた。猛威がガーナに及ぶのも時間の問題とされていたからだ。空港や国境での検疫が強化され、検査施設や指定病院の整備が行われた。

農村部でも、テレビやラジオといったメディアや看護師による説明会などを通じて感染を予防する方法が宣伝されていた。挨拶(あいさつ)の際に握手を避けること、野生動物の肉を食べないこと、食事の前に石鹸(せっけん)で手を洗うこと、急な発熱や頭痛や体の痛みを訴える患者の体液に直(じか)に触れないこと。

それらはある程度の効果を持ちうるだろう。しかし、欧米の病院でさえ、防護服をまとった看護師の感染を防げなかったことを鑑(かんが)みれば、万全の予防策とはとても思えない。いざ感染が拡大すれば、彼らとともに過ごし、ひとつの皿で食事をとっていた私自身の感染も免れえないだろうというのが、率直な感想だった。

それでも、感染を予防する方法を盛んに発信したことに意味はある。今まで聞いたこともなく、目で見て確認することもできないウイルスの存在を信じることは容易ではない。たとえ疑いながらであったとしても、それが存在する可能性を信じることに、予防法の宣伝は寄与していたのである。

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