国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

信じる

(5)人は見かけによらず  2015年2月19日刊行
杉本良男(国立民族学博物館教授)

南インド、チェンナイの街角=2007年2月、筆者撮影

インドの空港に到着すると、ともかくいろいろな人が寄ってきて、さまざまなことを言ってくる。そのとき、どの人を信じて、どの人を警戒するのか非常に迷うことが多い。

たとえば、空港からホテルまでのタクシーをつかまえるのも、慣れていないとむずかしい。空港には多くの場合、前払いのタクシーがある。カウンターでお金を払って予約すると、社員とおぼしき人が出てきて一緒に空港の建物を出る。いざ車のところに着くと、案内してくれたのは会社とは何の関係もない人で、荷物を運んだチップを要求してくる。関係のない人が車に同乗してくることさえある。

南インドの人は、もともとあまり愛想がよくない。とくに、外国人に道など聞かれると、日本人ほどではないにせよ、警戒してこわい顔をする。そのうち、私たちはある傾向があることに気づく。

それは、町中で道を聞いたにしろ、タクシーを止めたにしろ、一見とっつきにくい人ほど案外親切だということであった。そういう人は道を聞かれると、ただ教えてくれるだけでなく、近ければそこまで連れて行ってくれる。そのかわり、流暢(りゅうちょう)な英語を使い笑顔で近づいてくる人には、少し警戒した方がいい。人は見かけによらないものである。

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