旅・いろいろ地球人
ノートの落書きから
- (4)私、まれびと 2016年6月2日刊行
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川瀬慈(国立民族学博物館助教)
人相の悪い髭面(ひげづら)の男=写真。エチオピア北部の都市ゴンダールで人類学の調査をはじめたころの私の姿だ。
これを描いた少年は、自宅でいつも母親とトラブルを起こし、私の部屋に逃げ込んできた。私が日本から持参した機材や文房具を、私の目を盗んで触るのが大好きだった。いくら「触るな」と注意しても聞き入れず、いろんないたずらをやらかした。
また、私のフィールドノートにいちばん多くの絵やメッセージを書き残したのも彼である。どこからともなくやってきて、恐らくは、彼にとってはわけのわからないインタビューやら映像記録を行い、またそそくさと去っていくまれびとの姿は、彼にはどううつったのだろう。
少年はその後、街のレストランやカフェの壁に抽象的な絵を描くことで生計をたてはじめた。ある時、どうしてもタトゥーマシンを送れ、というので、インターネットオークションで中古のタトゥーマシンを購入して送った。直後に、首都のアジスアベバへ引っ越し、小さなタトゥースタジオをかまえた。
開店当初は寒々しいものであったが、徐々に客を増やし、いまでは人気のタトゥーアーティストになった。一月に一度、故郷の母親への仕送りを欠かさないというから、たいしたものである。
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