旅・いろいろ地球人
手仕事の今
- (3)機械か、人か 2016年7月21日刊行
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上羽陽子(国立民族学博物館准教授)
ムガ蚕の繭を煮沸してから、座繰りで生糸をつくる女性達「私の祖父の時代には、ムガ蚕500繭で5ルピーしか価値がなかったのだ」。インド東部アッサムの野蚕(やさん)製糸工場のオーナーは言う。「ところが今は、繭が高価になって、野蚕布を自分たちは着ることができないのだよ」
インドにはムガ、タッサー、エリといった実用可能な野蚕種が生育している。家蚕にはない、独特の色や風合いがあり、その特異性からファッションの現場で世界的に流行している。
インドの野蚕業は、蚕飼養から糸づくり、製織までを家内手工業的な小規模の生産形態でおこなうことが特徴である。野蚕糸は絡まりやすく、扱いが困難なため、生産を機械化することが難しい。インドの人件費が安く、山間部に住む地元少数民族が生業としていることで支えられている。
日本における手仕事品は、人件費が高いため価格が高くぜいたく品となる。そのため手仕事というと価値のあるものとして捉えられることが多い。
一方、インドでは野蚕糸のように、手仕事でなければできないからといった理由ではなく、機械化したいが初期投資費用を抑えるために低賃金の労働者が支えている手仕事品もある。
手仕事だから価値が上がるという価値体系ではなく、手仕事だからこそ安く生産されものがあるのだ。
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