旅・いろいろ地球人
フィールドワーク
- (1)身体化された文化 2016年11月10日刊行
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横山廣子(国立民族学博物館教授)
一家の大黒柱のおばあさん。たばこを吸って休憩する時のお決まりの姿勢=マレーシア・ペナンで1981年、筆者撮影私が調査で最初に住み込んだのは、マレーシア・ペナンの農村だった。当地の大学の紹介で、ある世帯に住まわせてもらい、暮らしを観察した。そこで私は「身体化された文化」、つまり慣習的に身についている文化というものに、身をもって向き合うことになった。
訪問調査とは異なり、高床式住居で共に生活するなかで、自分の身体が慣れないことを強く意識する体験をした。困難は言葉がよく通じないことよりも、就寝、水浴、排泄など身体と直接かかわることで、その最たるものが食事だった。
床に敷いたゴザの上で人々は車座になり、右手を巧みに使い、大皿に入った銘々のご飯と、中央に置かれた魚や野菜のおかずが入った数枚の中皿と唐辛子調味料の小皿との間を往復しながら、瞬く間に大量のご飯を平らげた。私は、インディカ米のご飯が指の間からパラパラとこぼれ、なかなか減らない。魚好きの私だが、次第に小魚の干物をみんなで少しずつちぎって食べるのがやけに生臭く感じられ、食欲がなくなった。
しかし、不思議なもので、極端に小食の状態が3日続いた後、俄然、食欲が出てきて、下手ながらもご飯が食べられるようになった。
そういう日々を通して、人びとの表情、包丁の使い方、作業の身のこなしなど、独特の身体化された文化にも気づくことになった。
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