国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

世界の屋根で言葉歩き

(3)30,000  2018年5月26日刊行

吉岡乾(国立民族学博物館助教)


ブズカシに興じるカタ人たち。首とひづめを切った羊を用いている=パキスタン・コニシト村で2016年11月、筆者撮影

日本で3万人と言えば、高忍日売神社で有名な、愛媛県伊予郡松前町の人口ほどである。ヒマラヤ、カラコルムの山々を除いて世界で最も高い山、ティリチ・ミール峰を擁する、ヒンズークシ山脈。その山奥にカタ人は生きる。彼らは主にアフガニスタンのヌーリスタン州に暮らすが、パキスタンのカイバル・パクトゥンクヮー(KP)州にも僅かに集落がある。その内の約3万人が話す彼らの民族語がカティ語である。

カタ人をはじめ、この地域には、かつて独自の多神教を信仰していた幾つかの民族が暮らす。故に、昔は「カーフィリスタン(異教徒の地)」と呼ばれていたが、19世紀末のイスラム強制改宗後に「ヌーリスタン(光の地)」と改められた。

私のカティ語の調査地はKP州のコニシト村だ。村への道は未舗装で、カタ人は馬で移動する。この村ではアフガニスタンの国技でもある「ブズカシ」(ヤギなどを奪い合う騎馬スポーツ)が盛んだ。

アフガニスタンが近いということで、外国人は近年、警察官を24時間、同伴させねば入域できない。警護という名目だが、実際は監視目的だ。狼藉を働く気など元よりないが、自由に行動できないとなると、居心地が悪くて参ってしまう。

ただの平和な山村なのだがな。

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