国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

世界をめぐる楽器

(4)名前の一人旅  2019年4月27日刊行

福岡正太(国立民族学博物館准教授)


パクパク・バタック人が演奏しているクルチャピ=インドネシア・北スマトラのダイリで2005年、筆者撮影

東南アジアには、「カチャピ」やそれに似た名前をもつ弦楽器が多い。「カチャピ」は、サンスクリット語の「亀」あるいはセンダン科の木の名前に由来すると言われる。ジャワ島の仏教遺跡ボロブドゥールの浮彫に描かれている舟形あるいはびわ形の胴の弦楽器とともに東南アジアに伝えられたと考えられている。

その名前は少しずつ形を変えながら広まった。インドネシアのクチャピ、クルチャピ、カチャピン、ハサピ、フィリピンのクティヤピ、タイのクラチャッピーなどが知られている。さらに頭の1音が落ちたカンボジアのチャペイ、マレーシアのサペなどもある。

これらの楽器は、リュートやギターの仲間が多いという共通点をもつが、胴の形、棹の長さ、フレットの有無や形、弦の数などさまざまで、必ずしも同系統の楽器とはみなせない。西ジャワのカチャピのように琴の仲間の楽器もある。20世紀前半に日本で考案され、アジア各地に広まった大正琴も、西スマトラではクチャピと呼ばれている。

楽器は、ある場所から別の場所へと伝わり、そこでまた変化を遂げながら伝えられてきた。ところが、楽器の広がりとその名前の広がりは必ずしも一致しない。それは世界の楽器を知るための悩みの種でもあり、楽しみでもある。

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