旅・いろいろ地球人
ルーマニア社会主義
- (5)桃源郷を取り巻く現実 2019年8月31日刊行
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新免光比呂(国立民族学博物館准教授)
調査した村の古い木造教会=ルーマニア・マラムレシュで1995年、筆者撮影
チャウシェスク独裁体制はついに倒れた。ソ連もゴルバチョフのもとで解体した。旧ユーゴスラビアでは、民族、宗教が絡んだ戦争が始まった。筆者のフィールドワークは、そうした時代を背景としていた。
現地の民俗学者の紹介でマラムレシュ地方の小さな村に住みこむことになった。木造家屋が緑のなかに点在し、通りに面しては立派な木造門が並び、村はずれの丘には古い木造教会がある美しい村だった。
休日の村の路上での村人総出の散歩、結婚式、葬式、教会での礼拝、共同の蒸留所で作った各家庭ご自慢の蒸留酒(ツイカ)、水車小屋と水流を利用した洗濯場など、やがて日本のテレビ番組でも何度となく取りあげられる風俗習慣の中にどっぷりとつかった日々であった。
ただ、この村も桃源郷ではなく、現代社会のなかに生きてきた。ルーマニアで主流であるルーマニア正教会とギリシア・カトリック(17世紀に正教会からカトリックに改宗した人びと)との対立、集団農場解体にまつわるいざこざ、伝統的宗教と福音派セクトとの対立、社会インフラの不備など現実は厳しい。そして町で暮らす子供たちに忘れられたかのような孤独な老人たちと彼らの貧困に胸をつかれた。
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