国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

移動手段の文化史

(3)生きている乗りもの  2020年4月18日刊行

飯田卓(国立民族学博物館教授)


モンゴルウマに乗る梅棹忠夫=チャハル盟からシリンゴル盟への途上にて1944年、和崎洋一氏撮影

われわれが乗りものといえば船や車などの人工物を指すことが多いが、生きている乗りものもある。馬やロバ、ラクダなどの駄獣は、荷を運ぶだけでなく、人を乗せる乗りものとしても用いられてきた。

わたしの調査経験では、マリやモロッコの砂漠地帯でラクダに、エチオピアの山岳地帯でロバに乗ったことがある。いずれも、車輪をもつ乗りものに不向きな環境である。

ケニアの島嶼部でもロバに乗った。1日で一周できるほどの小さな島では、大げさな乗りものよりも家畜のほうが便利なのだ。しかし近年は近代化が進み、狭い島内にオートバイが駆けぬけ、交通安全が喫緊の課題になっている。

しかしいずれも短期の調査だったので、家畜は必要というほどではなかった。この点、戦前のフィールド調査では、どの分野の研究者も家畜を必要とした。国立民族学博物館の創始者だった梅棹忠夫も、旧満州(現中国東北部)の大興安嶺(1942年)で馬を使い、モンゴル(44年)で馬とラクダを使っている。

国立民族学博物館では、梅棹の生誕100年を記念する企画展「知的生産のフロンティア」で、終戦前後の梅棹の調査活動を紹介している。新型コロナウイルスの収束を待って開幕するので、お待ちいただきたい。

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