旅・いろいろ地球人
調査は想定外だらけ
- (4)仕上げは道路工事 2020年6月27日刊行
-
樫永真佐夫(国立民族学博物館教授)
山中で修理中のタンさん(左)に食料などを毎日届けた=ベトナム・ディエンビエン省で2007年2月、筆者撮影
ベトナム・ハノイから黒タイ族の調査村まで400キロ以上。途中に険しい峠もあり、バイクで行くたびに危ないと思う。かといって乗り合いバスはよく谷に転落している。そこでタンさんと出会ってからは、短期なら彼の車で行くようになった。
彼はベトナム戦争中、黒タイ族が多い山間部とハノイの間を夜間、無灯火のトラックで行き来していた大ベテランだからだ。人となりも信頼できる。だが15年以上の付き合いのあいだには、いっしょにこんな事故にも遭った。
2007年の旧正月の頃である。かつて徒歩でしか行けなかった道が県道として整備されたという噂を聞きつけ、彼とその道を使ってみた。道は途中までしか完成していなかった。だがそれくらいで勇士はひるまない。その結果、もはや道ではない砂地の斜面でタイヤをすべらせ、横転は免れたものの窪地にダイブして車軸が折れてしまった。
調査村まで20キロ地点。私は歩いて谷を越え、その先にあった村でバイクタクシーを雇い、調査村に行って助力を乞うた。次に北部全土にいるタンさんの仕事仲間の一人を訪ねて必要な道具を借り、水や食料とともに村の若者と届けた。タンさんは荒野に一人、3日がかりで車を修理した。仕上げは、若者たちと付近の石を積んで坂道を作り、窪地から車を救出。今ではそこに舗装道路が通っている。
シリーズの他のコラムを読む