国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

コロナ禍とインド

(3)地方都市の現状  2020年7月18日刊行

三尾稔(国立民族学博物館教授)


華麗な女神像の行進は観光の目玉だったガンゴール祭は今年、中止された=インド・ウダイプル市で2019年3月、筆者撮影

インドは新型コロナウイルス感染者が1000人未満だった3月下旬に、外出禁止や交通遮断を伴う厳しいロックダウン措置を開始した。しかし感染拡大は止まらず、何度か内容変更を繰り返しつつロックダウンは5月末まで継続した。現在は経済への打撃を考慮して措置は緩和され、州単位で感染対策が取られているが、感染者数は増加を続け、本稿執筆の6月18日時点で累計感染者数は35万人を超えている。

劣悪で密な住環境の多い大都市で感染が止まらない。また急なロックダウンで仕事を失った出稼ぎ労働者が出身地に帰ることで感染が全国に拡散していることも感染急拡大の要因と指摘されている。

筆者が長年調査している西部の地方都市ウダイプルの友人によると、ロックダウン中は辻々に警官が立ち、必需品の購入以外は全く外出できなかったという。商都ムンバイから戻った出稼ぎ労働者からの感染例もあるようだ。商店やレストランは再開したが活気は戻っていない。今も50人以上の集会は禁止。婚礼や祭礼も全く行えない。旧王宮や美しい湖が魅力の観光地なのだが、客は途絶えホテルや土産物店も危機にある。

インドの経済発展は大都市の躍進を多数の中小地方都市が支える好循環を生んでいた。コロナ禍はそれを一瞬で凍結させてしまった。回復への道程は長いものになるだろう。

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