国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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異文化を生きる

(4)敬意と共生  2020年11月28日刊行

飯泉菜穂子(国立民族学博物館特任教授)


「みんぱく手話言語学フェス2015」で手話通訳する筆者(右)=大坂府吹田市の国立民族学博物館で2015年9月、主催者記録写真

100人の手話話者(ろう者)の中に手話を解さない聴者が一人紛れ込んだ時、どんなことが起こるかを想像してみてほしい。手話が言語であるというとらえ方から社会を見渡してみるとマジョリティとマイノリティ、障がい者と非障がい者、常識と非常識といった区分がいとも簡単に「逆転」することに気づくはずだ。

自分はずっと、音があることをあたりまえとするマジョリティ集団を現所属としてもちながら、音がないことをあたりまえとするマイノリティ集団にアプローチしつづけてきた。異文化集団にアプローチしようとする時もっとも大切なことは、その集団に対する敬意と、共生のための努力であろう。それは、手話話者と聴者の関係にも言えることだ。

コロナ禍という環境下、緊急事態宣言発出期間中の都道府県首長記者会見等に手話通訳が付与され、メディアによって取り上げられる機会が増えた。非常時にどうしても取り残されてしまいがちなマイノリティ集団への情報保障の必要性が、これまでなかったほどに、マジョリティ集団メンバーの多くに認識されたことには大きな意義があったと思っている。

これを機に「言語としての手話」や「異文化としての手話話者(ろう者)」への関心を持つ人が更に増えてくれることを願っている。

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