旅・いろいろ地球人
サントメ砂糖紀行
- (4)サトウキビを噛む 2019年11月30日刊行
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鈴木英明(国立民族学博物館助教)
サントメ島のサトウキビ=同島で2019年1月、筆者撮影
現在の西アフリカ・サントメ島はカカオ輸出に力を注いでいるが、サトウキビがこの島からなくなったわけではない。
常設市場のパームワイン屋で僕に1杯勧めてきたのは、バイク乗りのマヌエルだった。以来、毎日顔を合わせる仲になる。ある日、彼女に会いに行くから一緒に来ないかと誘われた。町を外れ、山道を少し登り、カカオの林が途切れたその先の小さな集落に彼女の家があった。
町に帰る時だった。畑の小さな一角にサトウキビを見た。どうやら収穫を終え、畑を焼き始めていた。作業をしていた農夫に声をかけると、優しく対応してくれた。砂糖はアグアルデンテの材料として売るのだという。
彼はまだ畑に残っていたうちの1本を、その場で刈って僕たちにくれた。それを小分けにして噛む。硬い茎に苦戦しつつ、甘い汁を口に含む。そこから全身に甘さがいきわたる。甘い。この島がポルトガル人によって「発見」され、アフリカから奴隷が連れて来られ、サトウキビが持ち込まれ、砂糖がヨーロッパに渡り、そして、ブラジル産に国際市場から駆逐され、いまはこうして地元で消費される酒の材料になっている。そんな広大な時空が、噛みしめるたびに頭をよぎる。甘さと広大な時空とに、なんだか僕は朦朧としてきた。夕暮れ時の曇天に湿った風がすっと通り抜けた。
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