民博のオセアニア展示場入り口の床が、巨大なオセアニア地図になった。歩きながら島と島の間の距離や海の深さ、広大な海に散在する島の多さを実感できる。陸上で生活していた人類が、なぜ海に乗り出したのかについては諸説がある。考古学や古環境の研究成果を合わせると、自然環境の変化がその背中を押した可能性が見える。
発達した航海技術をもった人類が東南アジア島嶼(とうしょ)部から拡散したのは、今から3300年前ごろだった。その後、2000年前と1000年前ごろにも、各地で新しい島の発見と移住が行われた。いずれも温暖化した時期で、海水面が数メートルほど上昇した時期と一致する。海岸沿いに住み、内海の海産資源を利用していた人々にとって、数メートルの海面上昇の影響は大きかったと考えられる。
他方、ハワイやイースター島への移動は、今から1200年前ごろに行われた。この時期はエルニーニョが多発しており、その影響で、年間を通じて吹く強い東風が弱まったことが、この長距離航海を可能にしたとみられる。床面地図の上を人類の移動ルートをたどって歩くと、移動距離の長さに感心するとともに、その勇気ある探検心に感動する。
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