国立民族学博物館(民博)では、毎年、アイヌの工芸技術伝承者数名を1カ月間研究員として迎え、民博の資料を身近に手にとって調査研究してもらうとともに、実際の制作活動も進めるというプログラムを実施している。
資料の調査に基づいて、本を出版される方もいれば、自分たちの祖先の手になる遺産を複製し、卓抜な意匠や優れた技術を継承していかれる方もいる。
アイヌの人びとは、動物や植物、家や器物など、大切なものをカムイ(神)として敬う。
そこで民博では、1年に1度、技術伝承者の研修期間に、民博に収蔵されるモノたちのカムイに向けた儀礼、カムイノミを実施している。
儀礼では、日ごろは収蔵庫に収められている器や道具を実際に使用する。その儀礼に参加するたび、私は、それが収蔵品に命が吹き込まれる機会だという思いを新たにする。こうした活動は、博物館を生きた存在にする試みであり、いいかえれば、博物館を単なる過去の有形の遺産の保存庫ではなく、現在の人びとが、そこに集い、無形の知識や技術を継承することで、次の時代を作り上げる装置として活用しようという試みである。
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