国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

再生への道

(5)足跡でたどる知の源  2011年12月8日刊行
久保正敏(国立民族学博物館教授)

砂浜にエミューの足跡を描く=マニングリダにて
250あったアボリジニ言語のうち今でも日常使われるのは60で、110が絶滅の危機にあるという。18世紀の入植以降、アボリジニの自然消滅を待つ保護隔離政策、白人社会へ吸収する同化政策などの白人政策が、アボリジニ文化を破壊してきたからだ。 

しかし、1973年にオーストラリアが多文化主義へ大きく舵(かじ)をきったのに伴い、伝統文化が残る北部準州などでは英語と母語の二言語教育が制度化された。マニングリダの町でも先進的にこれを導入、母語の教科書を作り二言語教育が進められてきた。 

ところが2000年前後から潮目が変わり、英語能力が伸びないとの理由で州政府は二言語教育の廃止や縮小を図り補助金もカットした。しかし町の教育現場では、文化アイデンティティの基本としての母語教育を続けるとともに、伝統知を継承するための動植物野外調査を組み合わせ、その結果、昆虫の新種を45も発見したらしい。 

私が以前見た足跡教室もそうした野外授業のはしりだろう。足跡から動物の行動を推測する知識は狩猟に必須、海岸の砂浜で教師が描くエミューなどの足跡を生徒がなぞりながら覚えるのだ。文化の再生につながるこの授業が続けられることを願う。
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