国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

再生への道

(8)被災地に鹿角を  2012年1月5日刊行
林勲男(国立民族学博物館准教授)

盆行事での鹿踊り=岩手県大船渡市三陸町で
震災発生から3カ月がたとうとするころ、被災した民俗芸能の鹿踊(ししおど)りを支援するため、有志で「愛deerプロジェクト」を結成した。鹿頭には本物の鹿の角をつけるのだが、条件を満たす角を東北地方だけで短期間に探すには限界がある。そこで関西で集めて送ろうとするものであった。 

しかし、野生動物は寒冷地ほど体格が大きく、南に行くにしたがって小さくなる。さらに、近年では鹿の頭数増加により、生息域密度が高くなったため、個体は小ぶりとなってきている。大きさや形状などの条件を満たす角集めは、思いのほか苦労した。 

それでも鹿角を求めていた大船渡市と南三陸町の3団体に贈ることができ、すでに加工作業が始まっている。他の衣装や道具類も支援を得ることができたそうだ。早ければ、この春には活動を再開できるだろう。 

ところで、なぜ支援の対象が鹿踊りなのか、とよく聞かれる。理由は、死者供養にある。肉親を亡くした遺族にとって、災害という非常時であっても、できる限り日常の作法で供養してあげたいとの思いは強い。東北沿岸部では、剣舞(けんばい)や念仏踊りと同様に、鹿踊りにも死者を弔う意味が込められているのである。
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