国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

マレーシア(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年11月12日刊行
信田敏宏(国立民族学博物館教授)
村びと総出で祝う結婚式

結婚式での新郎新婦。それぞれに付添人がいます

マレーシアの奥地に暮らす先住民オラン・アスリ。村の生活に彩りを添えるのは、さまざまな祭りや儀礼です。なかでも結婚式は、村びと皆が楽しみにしている儀礼の1つです。
結婚式の当日、村びとは朝から総出で食事の準備をします。鶏肉や牛肉を細かく切るのは男たちの仕事、野菜を切り、お米を炊くのは女たちの仕事。会場となる村の公民館には、バティン(村のリーダー)をはじめ、村の長老たちが集まり始めます。

料理の準備が整った頃、おもむろに結婚式が始まります。新婦の親族が新郎を迎えに行き、新郎は会場へ向かう道の途中で迎えにきた新婦と出会います。あたりは、両方の親族でごった返していて、ゴングやギター、バイオリンなどの楽器の演奏に合わせて祝いの歌が歌われます。

 

竹筒を用いてルマン(ちまきに似たもの)を作る男たち

新郎新婦が会場の前につくと、祝いの舞「シラット」が披露されます。その後、新婦だけが会場に入ります。新郎は入れません。入り口に新婦の親族が立ちふさがっているからです。いじわるではなく、これも儀式なのです。新郎の親族が、新婦の親族と押し問答をしますが、なかなか入れてくれません。最後は、力ずくで無理やり入ります。こうして、新郎は最後の試練を克服し、晴れて新婦との結婚式に臨むことになるのです。

 

伝統的武術として知られるシラットは、舞踊としても行われます

結婚式が無事に終了し、村びと全員で食事をします。これを共食の儀礼「クンドゥリ」と言います。大事なのは皆が同じ時に同じものを食べることです。クンドゥリは、村びとの気持ちを一つにする大切な儀礼なのです。

 

一口メモ

ゴング(どら)は、金属製の円盤をひもでつるしたもので、中央部をばちで打ち鳴らす打楽器です。東南アジア発祥とされています。

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