国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

特別な日の過ごし方

(7)教会の鐘の下で  2011年1月19日刊行
宇田川妙子(民族社会研究部准教授)

事故で亡くなった場所に人々が供えたろうそくや花
イタリアの町の教会の鐘は、毎日の時間だけでなく降誕祭や復活祭などの行事や、そこに住む人々の結婚式や洗礼式などの人生の節目を知らせる音でもある。そして人の死も、ひときわ単調に響く音色で町中に告げられる。

最近、人の死は社会から見えにくくなっている。イタリアでもその傾向がないわけではないが、死はいまだに家族や近親だけでなくコミュニティー全体の関心事だ。

誰かが亡くなるとすぐに町のあちこちに告知文が張られ、葬式の当日には鐘の音とともに、それほど付き合いのなかった者も教会に集まってくる。棺(ひつぎ)は教会の近くに来ると霊柩(れいきゅう)車から降ろされ、友人や親族らに担がれて教会に入るため、ミサに出席せず行列を見送る人も多い。みなたいていは普段着だが、いつもと違って神妙な面持ちだ。

そしてミサの終わりを告げる鐘の音とともに、棺は再び友人らの手で教会から運び出されて墓地へと向かう。墓地が近ければ徒歩での行列も少なくなく、付き従う人も多い。

彼らの葬式は日本に比べると簡素だ。しかしその小一時間ほどは、町中が死者の思い出や遺族の思いに寄り添いつつ、死そのものについても思いをはせる貴重な時間になっているのかもしれない。
シリーズの他のコラムを読む
(1)鯨が捕れた日 岸上伸啓
(2)新郎は辛労を越え 陳天璽
(3)称号を授かる日 信田敏宏
(4)大晦日の運だめし 飯田卓
(5)民衆の創造力 鈴木紀
(6)独裁者がおびえた日 新免光比呂
(7)教会の鐘の下で 宇田川妙子
(8)ラップラップ 白川千尋