南太平洋のバヌアツの人々は、その多くがキリスト教徒である。キリスト教徒の人々にとって、日曜日は特別な日の一つだ。安息日のこの日は仕事をせず、教会のミサに出かけたり、家族とともにリラックスしたりしてすごす。私が居候していた離島の一家も同じだった。身だしなみを整え、晴れ着を着て村の教会に出かけていた。
一方、居候の私は、不謹慎ながら教会よりもその日の昼食の方が気になった。というのも、日曜日には一家の女性たちが、ラップラップという料理をつくることが多かったからである。これは、ヤムイモなどのイモ類をすりおろしたもののなかに肉や野菜などを入れ、ココナツミルクなどで味つけした後、バナナの葉で包み、焼いた石で蒸し焼きにしたものである。午前中に教会に出かけた後、昼食に皆でこの料理を楽しむのだ。
島でふだん食べるのは、ほとんど味つけのされていない、煮たり焼いたりしただけのイモ類が中心だった。最初の頃はその淡泊な味とボソボソとした食感に食が進まず、食事どきになるといささかテンションが下がったものである。そんななか、日曜日は私にとって、ラップラップという御馳走(ごちそう)にありつける待ち遠しい特別な日だった。
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