今から30年以上も前、私はインドネシア・ジャワ島のある村に暮らし、村人のさまざまな仕事を学んでいた。
村では5日ごとに定期市が開かれ、遠郷近在からたくさんの物売りがやってくる。野菜、干魚に籠や笠(かさ)、布に金物、農具と何でも売られている。その中には、ポスター屋もいた。
ポスターの絵柄はさまざま。インド古典のマハーバーラタに話をとった影絵人形芝居は、ジャワの人気芸能である。そのヒーローたちが描かれている。生身の人間が演じる古典芝居の絵や、人気映画スターのカレンダーがあるかと思えば、アラビア文字で書かれたイスラムの聖句やモスクの絵もある。漫画の主人公の姿も見える。
ジャワ農村の住まいは物が少なく、部屋の壁はがらんと空いている。人はそこに写真やポスターを貼って、室内の潤いにする。
よそ者の私には、村で昔から使われる素焼きの土器、編み籠、笠などに、暮らしの美が見えた。一方、村の住人には、簡素な印刷ポスターこそ、部屋を飾るにふさわしいものだった。後で気づいたのだが、さまざまなポスターがまぜこぜに並ぶポスター屋の一角には、ポップアートのような美があった。
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