今年の1月、北海道の阿寒湖温泉で国際シンポジウム「先住民族の文化資源と知的財産」が開催された。北米や台湾から先住民の文化行政官と工芸家、研究者が集い、観光開発、遺跡の管理、法律の解釈などを議論した。
翌日は発表者全員でアイヌ文様を室内装飾に採用したホテルや古式舞踊を見学。地域経済を支えるアイヌ民族の文化資源を確認した。アイヌ民族は舞踊などの無形文化に加え、さまざまな素材と熟練の技術からなる工芸品も知られている。今日その一部は観光客用に形態を変えている。携行に便利な小型軽量化や、演舞のプログラム化などだ。
ところでアイヌ民族と同様、木彫と儀礼で著名なホピという米国先住民がいる。その政府機関で長年文化行政に携わってきたクワンウィシオマ氏は、伝統文化の商品化への断固たる反対を信条としてきた。よそ者の嗜好(しこう)への迎合が、くらしに根ざした価値観の形骸化を招くと警戒するためだ。アイヌ民俗資料館(私設)に並ぶ非売品の儀礼具を前に「お金には換えられない価値がある」とつぶやいたのはその思いの表れだろう。とはいえ、よそ者の観光客として高度な彫りの商品群や洗練された踊りに感嘆の声をあげたこともまた事実である。
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