わたしは世界中の人びとの多くが装飾品として身につけているビーズ細工に関心をもってきたが、アイヌの首飾りはとりわけ個性が強く魅力的だ。青をはじめ、黒、黄、白など球形のガラス玉の色彩が豊かであるだけでなく、直径が3センチ以上の大きな玉を含み、力強さをかねそなえている。
北海道に暮らすアイヌの人びとは、古くから毛皮などの産物との交換で中国や本州方面から移入されたガラス玉を入手して、独自の首飾りをつくってきた。これらは、母から娘へと伝えられて女性の魂として大切に保存されたという。また、それぞれの玉には心臓玉、胸玉、手玉、足玉のように人体の名称がつけられている点も彼女らの玉への思いの深さがうかがえる。
現在、アイヌの人びとの玉への思いは薄れたかのようにみえる。かつてのように結婚式などに婦人が伝統的な装身具を身につけることはほとんどなくなった。首飾りは、アーティストの作品のなかや博物館の展示のなかでしかみられなくなった。しかし、現在、阿寒のアイヌコタンの民芸品店などに行くと、首飾りではないがケータイのストラップにつける青玉にその伝統が生きている。
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