旅・いろいろ地球人
アメリカ大陸の物作り
- (4)ルーツを描く 2012年2月2日刊行
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鈴木紀(国立民族学博物館准教授)
工房の若者たちメキシコ南部オアハカ地方は民芸品の宝庫として知られている。中でも観光客に人気があるのは、あざやかな色に塗られた木彫りの動物たちだ。1950年代に地元の農民が作りはじめ、70年代にはメキシコ政府が地場産業として振興した。国際的な名声を博した作家も多く、国立民族学博物館でも一部の作家の作品を展示している。
芸術品として価値が高いのは、表面に先スペイン時代の文明を思わせる紋様を描いた作品だ。小さな図形を複雑に組み合わせたデザインは、かつてオアハカ地方を支配したサポテカ人の都ミトラの神殿装飾にどこか似ている。
だからこうした紋様は、先住民族の技術を継承しているかのように見える。しかし作家の大半は、もはやサポテカ語を話さず、先住民族意識も希薄である。かたやメキシコを訪れる多くの観光客は、珍しい先住民族文化にあこがれる。「先スペイン風」の木彫りが制作される理由はそこにある。
その結果は商業的な成功ばかりではないだろう。工房では多くの地元の若者が見習いとして働いている。彼らにとって木彫りの制作は、自分たちの文化的ルーツを再発見し、表現する作業でもある。
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