旅・いろいろ地球人
伝統と電灯
- (3)漆黒の海と満天の星 2012年3月22日刊行
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野林厚志(国立民族学博物館教授)
蘭嶼の住民ヤミ族の伝統家屋大学四年生の冬、初めてフィールド調査に赴いたのが台湾の蘭嶼(ランショ)という島だった。そこには台湾の原発から出る低放射性廃棄物の貯蔵施設があり、今なお存在している。
住民への不十分な説明、民主化への動きもあり、住民たちの反対運動が繰り返されていた。一方、施設使用の見返りのごとく、島内バスの寄贈等、さまざまな形で補助金が島に入っていた。当時、電気料金が無料だと聞かされた時はそれほど意識しなかったが、今となれば、その業の深さを思い知る。
伝統家屋の中にも電線が引き込まれ、屋内には蛍光灯が煌々(こうこう)と灯(とも)り、夜にフィールドノートをとるのも不自由しなかった。思い描いていた調査とはずいぶん違った。
そんなある日、村にきている電線が切れ、全戸停電となった。私の居候先の主は私が不便だろうと蝋燭(ろうそく)を点(とも)してくれた。が、面倒な気もしたので、蝋燭は消し、早々と店じまいを決め込んだ。
人工的な明かりのない夜を初めて経験した。漆黒の海と満天の星を見て、かつてこの島で調査を行った先達に思いを寄せた。やっと彼らと同じ風景が見られたのではないかと。それは島の人たちが受け継いできた風景でもあったのだ。
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