旅・いろいろ地球人
伝統と電灯
- (8)最先端とデモの間で 2012年4月26日刊行
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新免光比呂(国立民族学博物館准教授)
近くに原発のたつノルマンディー海岸国家権力に対して市民がデモで行う意思表示。それはフランスの風物詩のひとつだ。
そのフランスで原子力発電が8割近くに達している。昔、暖房は蒸気管で建物全体を暖めるシステムだった。夕方から蒸気管を暖め始め、深夜には停止させて朝まで余熱で過ごす。堅固な石造りだからこそ可能な暖房方法だ。
だが現在では、電気ストーブが急速に普及している。核戦力の保持とエネルギー自立を目ざす強烈な国家意思による核開発の結果である。だが、この電気を作るために、原発もまた発電量のおよそ2倍のエネルギーを自然界に捨てる。川や海を暖め、地球温暖化も促しているのだ。
フランスは伝統を謳(うた)いながらも最先端の技術を好む。核開発もキュリー夫人以来、おなじみである。インターネットが普及する前には、電話線を使ったミニテルという妙な機械があった。自販機もカード電話も導入は早い。ただ問題はすぐに壊れることだ。原発も事故が多いときく。大丈夫なのだろうか。
原発に依存してきたフランスでも、福島以後は少しだけ風向きが変わった。3月11日の脱原発デモには6万人が参加し、人の鎖をつくった。
核技術は国家意思を体現し、デモは市民的権利を表現する。フランスはせめぎあう二つの力の間で揺れている。
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