国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(5)音楽を「語る」  2013年9月19日刊行
寺田吉孝(国立民族学博物館教授)

記憶させてもらった一人、玉城利則さん。沖縄の芸能エイサーを大阪に伝えた人だ。=筆者撮影

私は、音楽の経験について人の話を聞くのが好きだ。自分の音楽体験を語ろうとすると、私が身体で記憶する感覚と、言葉が醸し出す「空気」とのギャップが大きすぎて悲しくなる。ほかの人はどう語るのだろう。

身体に潜む深い思いを言葉で語るのは不可能だろうし、「語ってすむのなら音楽なんかいるもんか」という声も聞こえてくる。だからこそ、語ろうとすれば、沈黙や、言い直し、戸惑いや、矛盾がつきまとう。このような語りのありように魅せられて、多種多様な音楽に関わる人びとの語りを映像で記録してきた。語るという行為をパフォーマンスととらえて、その人の音の体験や、音楽に託す情念に、すこしでも近づきたいと思ったからだ。

撮った語りはすべて記録として保存しているが、語りを軸にした番組も作っている。記録なら活字にすれば十分という「親切な」ご意見をいただいたこともあるが、語るときのちょっとした声、表情、体の動きなどの変化は、言葉よりずっと雄弁だ。文字にしてしまえばその情報は失われてしまう。語りのテキスト(語られる言葉)は、テクスチュア(語られ方)と組み合わさって初めて、言い得ぬ何かが(少しだけ)伝わるのだろう。今度は、あなたの話を聴かせて下さい。

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