国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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映画

(8)記憶をも呼び覚ます  2013年10月10日刊行
川瀬慈(国立民族学博物館助教)

家の軒先で唄うラリベロッチの女性=エチオピアで、筆者撮影

映画「テザ 慟哭(どうこく)の大地」はエチオピア出身のハイレ・ゲリマ監督による同国軍事政権下での人々の苦悩を描いた作品だ。2008年のベネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞したのをはじめ、数々の国際映画祭で高い評価を得た。また、日本を含む世界各国で上映されて話題を集めたため、ご存知の方も多いだろう。

本作の冒頭や作中ところどころに、歌詞のない甲高い女性の唄(うた)声が、印象的に用いられている。まるで長い間封印されてきた人々の記憶を遠くから徐々に呼び起こすかのようだ。しかしながら、これがラリベロッチ、もしくはハミナと呼ばれるエチオピア高原の吟遊詩人の唄声であることはエチオピア本国でもほとんど知られていない。

ラリベロッチは古(いにしえ)より町から町へ広範に移動し、早朝に家の軒先で唄を通した物乞いをしてきた世襲の唄い手集団である。相手をほめたたえる唄の返礼に、人々はお金、衣服、食物等をラリベロッチに与える。エチオピア高原で長年調査をしてきた私は、ラリベロッチと人々の豊かなやりとりに魅了されてきた。

ハイレ・ゲリマ監督によれば、ラリベロッチの唄は、富む者から貧しいものへの富の分配の大切さを訴え、さらに物質に偏りすぎる現代人に警告をする役割を担っているとのことである。

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