国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

悪人、悪玉

(3)子育て、モンゴル流  2014年2月27日刊行
小長谷有紀(国立民族学博物館教授)

「悪い子」と言いながら抱きしめる=モンゴルの アルハンガイ県で2011年5月、堀田あゆみさん撮影

モンゴルの調査では幸いなことにこれまで悪人に出会ったおぼえがない。しかし、「悪い娘」や「悪い犬」にはしばしば出会う。これらは名前である。娘といっても女ではなく、犬といっても動物ではない。れっきとした男性の名前である。

大切な子どもが、目に見えない邪悪なものに襲われないように、わざと悪い名前をつけておくという習慣があった。夭折(ようせつ)の回避を願う魔よけなのである。医療が整備されるにつれ、このような命名は激減している。けれども、子どもをかわいがるときに「悪い子、悪い子」と連発する習慣は今でも根強く残っている。

草原でも都会でも、自分の子に限らず、他人の子でも、くちゃくちゃに抱きしめ、キスをしまくって可愛がる。そのとき「悪い子、悪い子」と言う。

褒めて育てることは大事だろうが、子どもにとっては「良い子」であろうと努めるために、過分なストレスも与えているに違いない。「悪い子」と言いたてる子育てなら、そんな緊張も吹き飛んでしまいそうだ。「あんた、あほやな」という愛しかたに少し似ているかもしれない。

「悪い子」を連発して人に育てる社会だから、「悪い」という形容詞では、本当の悪人を表現できそうにない。

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