国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

悪人、悪玉

(4)「最優秀」は問題作  2014年3月6日刊行
鈴木紀(国立民族学博物館准教授)

カカオを手に踊る農民=ボリビア・アマゾン川上流地方で、筆者撮影

ボリビアのアマゾン川上流地方にあるエルセイボ組合はフェアトレードのカカオ生産で有名だ。農民たちは親睦のため4年に1度カカオ祭りを開く。2013年8月の祭りでは、約30のグループが芸能コンテストに参加し、歌や踊りを披露した。

農民の大半はアンデス高地からの入植者なので、故郷の踊りを舞うグループが多い。そんな中、最優秀賞に輝いたのは「ビジャソンの泉」というグループが演じた創作ダンスだった。

まず舞台にカカオの木を抱えた人物が登場する。つづいて黄色いダニの化け物のような仮面をかぶり、オレンジ色の派手な衣装をまとった男女約20人が踊りながら木を囲み、葉っぱをむしりだした。ほどなくマスクを付け白い作業着を着た技術者が駆けつけ、背負った噴霧器から液体を撒(ま)きはじめた。すると化け物たちはばたばたと地面に倒れ、苦しそうに足をふるわせた。

これは害虫を農薬で駆除するシーンにほかならない。カカオ栽培の厳しい現実がユーモラスに描かれていた。しかし観衆の農民たちは複雑な顔をしていた。有機栽培を試みる彼らにとって農薬散布は禁じ手なのだ。だから害虫をやっつける農薬は、善玉どころかやっぱり悪人なのだ。このダンスが有機栽培の是非を問う問題作であったことは間違いない。

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