旅・いろいろ地球人
調査は想定外だらけ
- (3)ばい菌ヤローめ! 2020年6月20日刊行
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樫永真佐夫(国立民族学博物館教授)
すみずみまで人の手が入っている山間部の村の景観はみずみずしく美しい=ベトナム・タンウェンで2002年6月、筆者撮影
ベトナム山間部の村、なんて言ったら、周囲は危険動物が徘徊する密林だらけと思う人も多い。だが実際には棚田が広がり、山もてっぺんまで焼き畑などで森が少ない。トラが出たのは1980年ごろまで。サイや野牛はすでに絶滅し、コブラだって私が見たのは一度きり。もはや魑魅魍魎の生存を感じる人も少ない。そんなのより恐ろしいのは目に見えないほど小さい奴らだ。
2002年にタンウェンという町を拠点に1カ月ほど黒タイ族の村を調査で訪ね歩いた。雨期なのでスイギュウやブタの糞たっぷりのぬかるみ道を裸足で歩くほかなかった。そのせいで、蚊に刺されてかいた痕などからばい菌が入り、調査終了時には両足がパンパンに腫れあがっていた。バスと夜行列車を乗り継ぎ2日がかりでハノイに戻るときには熱もあった。
病院に行くと、若い医師に真剣な顔つきで「足を切除しないといけなくなる手前だ」と脅かされた。一方で、かつてベトナム戦争に従軍した看護士は笑っている。「なに、名誉の負傷だよ。戦場じゃあナイフを火であぶって自分で傷口を切開して膿を出したもんだ」と。20もある傷口をメスで裂いて膿を残らず絞り出し、そこに薬を塗った綿をねじり込む処置はかなり痛かった。
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