旅・いろいろ地球人
コロナ禍とインド
- (1)外出規制の影響 2020年7月4日刊行
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三尾稔(国立民族学博物館教授)
変化し続ける女神像。祭礼中止はその活力をも止める=コルコタ市女神像展示館で2月、筆者撮影
コロナ禍の終わりはみえない。日本では5月25日に緊急事態宣言が解除されたが、再流行のおそれが指摘されている(本稿執筆は6月4日)。私が長年調査に訪れているインドでは流行拡大が続き、執筆時の感染者数は22万人弱で世界第7位となっている。今月の連載ではコロナ禍がインドの暮らしや文化(特に宗教文化)に及ぼす影響について考える。
同国初の感染確認は1月末で、中国・武漢から一時帰国した留学生が感染者だった。私はそれを東部の大都市コルカタのホテルで聞いた。入国審査官のマスク着用など防疫体制も整いつつあったが、この一報はまだ遠い出来事として捉えられていたと思う。
私はヒンドゥー教のドゥルガー女神像収集のため同地を訪れていた。みんぱくの資料は古くなり、時代の変化を映す資料収集の必要がある。同地は女神祭礼の中心地の一つで、見事な職人芸による像で知られる。つてを頼り良い職人を探し、展示用資料制作を依頼して2月に帰国した。
しかし、インドでは3月に感染が急拡大し、同25日からロックダウン措置が取られた。外出は全面禁止となり、鉄道やバス、飛行機等の交通も遮断。職人も外出できず、像の制作も止まったままだ。そもそも多人数の集まる祭礼の挙行じたい見通しが立っていない。コロナ禍は伝統的宗教文化にも重大な衝撃を与えているのである。
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