旅・いろいろ地球人
異文化を生きる
- (1)異文化留学 2020年11月7日刊行
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飯泉菜穂子(国立民族学博物館特任教授)
筆者が実行委員兼手話通訳として参加した「第17回関東ろうあ青年の集い」=東京都で1987年、集い実行委員会撮影
大学に入学した翌日に、生まれて初めてろう者に出会った。以来、私はずっと手話の世界にいる。現場の手話通訳、手話通訳を養成する学校の教員を経て、現在の職場では学術という専門領域で活躍できる手話通訳者を増やすための教育・研修事業を担当している。
手話や手話通訳と聞いて多くの人が連想するのは、障がい者福祉の領域ではないだろうか。それはもちろんとても大切な視点であるのだが、それだけでなく、手話は音声言語とは異なる、独立した自然言語であるというとらえ方が非常に大切だ。手話「通訳」を目指す、あるいは生業とする以上、通訳者とは、異なる二つの「言語」を用いてコミュニケーションの仲介をするプロフェッショナルだという認識とその認識に基づく学びが欠かせない。手話通訳は福祉領域で働く専門職であると同時に、なによりも先ず言語通訳なのだ。
言語には必ずその言語を用いて生活している「社会的集団」が存在し、その集団で形成され共有され継承されてきた行動様式=「文化」が存在する。音があるのが当たり前の世界と音がないのが当たり前の世界とでは、おのずと「文化」が異なる。聴者が手話の世界を訪れ、そこで生きようとするということは、ろう者社会という異文化集団に留学するようなものだと、私は考えてきた。
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