国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

悪人、悪玉

(1)英雄への思い  2014年2月13日刊行
河合洋尚(国立民族学博物館助教)

家庭に飾られた毛沢東のポスターなど=中国湖南省で2011年、筆者撮影

中国共産革命の英雄にして中華人民共和国の創立者である毛沢東。やはりと言うべきかさすがと言うべきか、中国を旅すると、今でも毛沢東の写真や銅像をあちこちで目にする。私も最初に中国を旅したとき、こうした光景を目の当たりにして、存在感に圧倒されたものである。

ところで、市井の人々が毛沢東を飾る理由は、実はさまざまなようだ。例えば毛沢東の出身地である湖南省では、レストラン、雑貨店、家庭などで毛沢東の写真や銅像を飾っている。彼への敬意の表れだという。なかには、毛沢東を万能の利益をもたらす神としてあがめ奉る家庭すらあるのだ。

ところが広東省だと、門や室内に毛沢東の写真を飾る理由を「魔よけ」と答える人が少なくない。伝統的に広東省では、悪霊も逃げるほど恐ろしい将軍の絵を、魔よけとして門の入口付近に貼る習慣があった。文化大革命を引き起こして人々を恐怖に陥れた毛沢東の写真を飾れば、どんな悪霊も逃げるから、効果絶大なのだという。

毛沢東は死後、各地で異なる解釈をされて、時には善神、時には悪霊を追い払う魔よけの神として飾られているわけだ。同じ中国でも、その見方はさまざまなのである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)英雄への思い 河合洋尚
(2)平和な「反抗」 太田心平
(3)子育て、モンゴル流 小長谷有紀
(4)「最優秀」は問題作 鈴木紀
(5)明治の善玉NPO 出口正之
(6)震災の夜に 竹沢尚一郎
(7)内なる魔 平井京之介
(8)呉鳳という伝説 野林厚志