国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

民族学者の仕事場:Vol.1 佐藤浩司― 調査作業

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─ そういう目論見があったわけですか。それで次に行ったところはどこでした?
佐藤 フィリピンで民家の建設過程を映像におさめたのですが、それは自分のフィールドというより他人の調査のお手伝いだったんです。その後、短期間ですが台湾の蘭嶼の調査をしたり、韓国へ行ったりして、長期間フィールドワークをする機会をねらっていた。だけど、建築学には民族学とちがって、何年も海外調査をするなどという前例がありませんでした。やっと奨学金がもらえて、生まれてはじめて訪れたインドネシアでそのまま2年間すごしました。インドネシアの家屋は民族ごとに独特の形式をもっています。その形式についてすべて記録に残そうという意気込みで調査をはじめたのです。家屋の形態は驚くほど多様に見えても、建築の構造を調べていくと、じつは共通の祖型が見えてくる。そんな発見が調査の喜びでした。昆虫の分類でナントカ科ナントカ目とやるように、家屋の形式を分類して・・・民博に来るまではそういう建築構造上の分類をしていました。

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※写真左 台湾・蘭嶼 1983 / 写真右 韓国・珍島 1984
─ 佐藤さんはこんな図面が描けるんですね。大学で勉強したんですか?
佐藤 いや、そんな勉強、誰も大学では教えてくれません。だから、ほとんど自分で、見よう見まねの独学です。やることは、ある家を見て、それと同じものが復元できるくらいに、徹底的に調べるということ。帰ってきて図面にできなかったら、次に行ったときは不足がないように図面を採る。これの繰り返しです。
─ 図面が描けなかったら建築はできないよね。設計はもちろん研究もできないですよね。
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※写真 インドネシア・ティモール島ブナッ 家屋の外観と内部 1987

図面 佐藤 もちろんそうですが、でも、そのへんのセンスは建築系の大学に4年もいれば身につくものです。これはティモール島のブナッという民族の家屋ですが(ノートを見せる)、現地でこういう平面図を描きますよね。そして、平面図で描ききれないところはディテールを採って、断面図を採る。それからこれらの資料をもとにこういう図面をつくる。
─ これは手書きですか?
図面 佐藤 もちろん手書きです。フリーハンドで。まず下書きをするんですよ。下書きを見たらわかると思いますけど、こういう仕事は一ヶ月くらいかかってしまうんです。きちんと三次元的に作図しながら描いて、その上からインキングをして、立体的な図面にしていくわけです。それが、本に載るとたったこれだけ。写真一枚と同じ。だから、ノートにたくさん実測してくるんだけど、描き起こすのにはとても時間がかかって、何も考えずにこういう作業をつづける時間が今はあまりない。
 

【目次】
イントロ住まいの調査手法住まいの原型フィリピン・ルソン島の民家と日本の古代住居調査作業屋根裏の空間水上生活者バジャウと狩猟採集民プナン何のための住居住居に向けられたエネルギーマイホームの共同研究会消費財としての住居巣としての住居空間と人間関係ホームレス住居と記憶四冊の本重みを失う空間