民族学者の仕事場:Vol.1 佐藤浩司―住居に向けられたエネルギー
[9/17]
─ 一つ確認しておきたいんですが、そういう農民の家、「聖なる家」とでもいうのか、ああいうすごい建築物をつくって維持するのは、たいへんな情熱とエネルギーがないとできないと思うんだけど。
佐藤 たしかに、社会が情熱をかたむける対象が家屋だったという事情はあります。でも、けっして珍しいということはないですよ。例えばピラミッドはある集団のエネルギーをすべてそこに寄せ集めて造っていくわけでしょう。造る人と造られる人がいるわけじゃないですか。だけどインドネシアの家屋では、本来そういう分業は成り立っていないですから。大工的な職能者はいても、みんなが建設に参加するわけですからね。
─ たとえば、日本の民家でも有名な白川郷の合掌造り。あれは家族の特別な形態があってああいう形になっていると説明付けられるけれど、しかし必ずしもああいう形にならなくてもいいはずですよね。もっと小さな、掘建て小屋みたいなものを並べてもいけるはずだと思うんです。しかし、そこに家を作るという情熱がある。あそこでもお互いに「結(ゆい)」というんですか、近所の人たちが協力しながら手伝って作るんだろうけど、いずれにしてもそこにすごい情熱をかける。すごいことだと思うんです。
※写真 白川郷の屋根葺き 1983
佐藤 インドネシアの農村と近いかもしれないですね。巨大な家を作ったり維持したりすることが社会に参加して生きている意味を与えてくれていた。白川の場合は、経済的な貧しさのせいで分家を許さなかったと言われていますけれど、だからといって巨大な家を建てる必然性はないですからね。
-
【目次】
- イントロ|住まいの調査手法|住まいの原型|フィリピン・ルソン島の民家と日本の古代住居|調査作業|屋根裏の空間|水上生活者バジャウと狩猟採集民プナン|何のための住居|住居に向けられたエネルギー|マイホームの共同研究会|消費財としての住居|巣としての住居|空間と人間関係|ホームレス|住居と記憶|四冊の本|重みを失う空間|